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樋口一葉の記

一葉忌について

かりに桜木のやどといえはばや、 忘れがたき昔しの家にはいと大いなるその木ありき

明治9年(1876年)、樋口家は当山の東隣に越してきました。現在は境内地手前の駐車場になっている場所に「桜木の宿」はありました。木造倉庫がついていた45坪もあった家でした。この時は、姉のふじも最初の嫁ぎ先から戻ってきており、両親、二人の兄、そして妹と、家族全員がそろっていて、父親の則義の事業も順調で、経済的にも家庭的にも最も恵まれていた時代だったのです。

そんな中、一葉は、倉庫で本を読みふけったり、2階の窓から境内の桜を眺めたりしていたのです。「腰衣の観音さま、濡れ仏にておはします御肩のあたり、膝のあたり、はらはらと花散りこぼれて、前に供へし樒の枝につもれるもをかしく」と、当時の法真寺の情景を「ゆく雲」の中で書いています。

明治5年
誕生。
明治9年
法真寺となりの地に4歳から9歳までの5年間を過ごした。後年、日記に「桜木の宿」として回想される幸福な少女時代であった。(「ゆく雲」の舞台)
明治19年8月
小石川の安藤坂の中島歌子の歌塾「萩の舎」に入門。14歳
明治23年9月
母滝子、妹邦子と菊坂町七十番地の借家に転居。18歳
明治25年5月
同上の隣家(六十九番地)へ転居。菊坂時代に伊勢屋質店との交渉が始まる。
明治26年7月
下谷区龍泉寺三百六十八番地へ転居。21歳
明治27年2月
真砂町の久佐賀義考(天啓顕真術)に借金を申し入れる。22歳
明治27年5月
約10ヶ月の龍泉寺町の生活を切り上げて、本郷丸山福山町四番地へ転居。22歳
明治29年11月23日
上記住居にて死去。24歳
一葉忌について

24歳という若さで逝った一葉が、ここで唯一幸せに暮らしていたのです。
そんな一葉のご供養のため、法真寺二十一世顕譽浩永和尚(平成17年5月30日に往生の素懐を遂げる)が、地元の町会の人々と昭和55年に「文京一葉会」を発足し、毎年11月23日に「一葉忌」を厳修し、現在に到っています。一葉忌は毎年、幸田弘子先生の朗読と、その年の講師の先生がお話をくださいます。

文京一葉忌の歩み

第1回
昭和55年
講師:作家 瀬戸内晴美
朗読:女優 幸田弘子
第2回
昭和56年
講師:作家 立教大教授 前田愛
朗読:女優 幸田弘子
第3回
昭和57年
講師:作家 青山学院教授 岡 保生
朗読:女優 幸田弘子
第4回
昭和58年
講師:作家・歌人 尾崎左永子
朗読:女優 幸田弘子
第5回
昭和59年
講師:作家 近藤富枝
朗読:女優 幸田弘子
第6回
昭和60年
講師:歌人 佐佐木幸綱
朗読:女優 幸田弘子
第7回
昭和61年
講師:作家 太田治子
朗読:女優 幸田弘子
第8回
昭和62年
講師:作家 井上ひさし
朗読:女優 幸田弘子
第9回
昭和63年
講師:作家 学芸大助教授 山田有策
朗読:女優 幸田弘子
第10回
平成1年
講師:作家 瀬戸内寂聴
朗読:女優 幸田弘子
第11回
平成2年
講師:俳人 黒田杏子
朗読:女優 幸田弘子
第12回
平成3年
講師:教授 序G峻康隆
朗読:女優 幸田弘子
第13回
平成4年
講師:作家 俵 万智
朗読:女優 幸田弘子
第14回
平成5年
講師:作家 近藤富枝
朗読:女優 幸田弘子
第15回
平成6年
講師:作家 青山学院教授 岡 保生
朗読:女優 幸田弘子
第16回
平成7年
講師:研究者 野口 硯
朗読:女優 幸田弘子
第17回
平成8年
講師:作家 瀬戸内寂聴
朗読:女優 幸田弘子
第18回
平成9年
講師:白百合女子大教授 久保田 淳
朗読:女優 幸田弘子
第19回
平成10年
講師:作家 太田治子
朗読:女優 幸田弘子
第20回
平成11年
講師:女優 新橋耐子
朗読:女優 幸田弘子
第21回
平成12年
講師:俳優 池辺 良
朗読:女優 幸田弘子
第22回
平成13年
講師:宗教学者 久保田展弘
朗読:女優 幸田弘子
第23回
平成14年
講師:法政大教授 田中優子
朗読:女優 幸田弘子
第24回
平成15年
講師:詩人 高橋順子
朗読:女優 幸田弘子
第25回
平成16年
講師:作家 荻野アンナ
朗読:女優 幸田弘子
第26回
平成17年
講師:早稲田大学名誉教授
紅野敏郎
第27回
平成18年
講師:山崎陽子
童話作家、ミュージカル脚本家
第28回
平成19年
講師:文芸評論家 齋藤 愼爾
朗読:女優 幸田弘子
第29回
平成20年
講師:女流漫画家 牧 美也子
朗読:女優 幸田弘子
第30回
平成21年
講師:太田 治子
作家
第31回
平成22年
講師:領家 高子
作家
第32回
平成23年
講師:中野 三敏
九州大学名誉教授
第33回
平成24年
講師:鈴木 淳
国文学研究資料館教授